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Walk on the wild sideと山口洋

Message from G.Yoko

ルー・リードという男。
そして1972年にトランスフォーマーというアルバムで発表した『Walk on the wild side』という曲。
私がこの曲を知ったのは16歳の時だった。

どうして出会ったのかはもう覚えていないけれど、ディランやバディ・ホリーや昔の映画が子供の頃から好きだったのだ。
トランスフォーマー、まず1曲目は「Vicious」。意味は背徳者と訳されてある。もう最高。
このアルバムは、刹那で気怠くて少し攻撃的で、でもユーモアたっぷりでそしてどこまでロマンチック。
この世をどこか醒めた目で見ながらもいとおしく描いた物語。子守唄を聴くように私はずっと聴いていた。

そして、たしか5曲目に収録されている「Walk on the wild side」は、ベースのスライドから始まりゴスペル調の女性のコーラス、そして気狂いとムードの狭間みたいなサックスの音がこのアルバムの中でもさらにロマンチックさを際立たせていた。
そして私は、この曲のタイトルがとてもとても好きだった。
「ワイルドサイドを歩け。」
無条件で心に響くのだ。
この曲をモチーフに手書きで何枚もTシャツを作るくらい好きだった。

そんなロックンロールやパンクロックを一人で聴いていた学生時代。学校には馴染めなかったが、一番心に響いた言葉をくれたのは高一の時の数学教師だった。
最後の授業で、皆さんに伝えたいことがあると、彼はこういった。

「これから、人生の道に迷った時は、きびしいと思う方を選んでください。」

ワイルドサイドの曲と繋がって、その言葉は私の心に響き続けた。
やり方で言えば、自分の都合のいいように物事を進めない、ということだと思った。

けれど東京での音楽生活を辞め地元に帰り、親の稼業を継ぎ、生活や保身などに身を置き、私の中で仕事とはいかにうまくこなしていくかというものになった。もちろん音楽からも遠ざかり、心もさらに閉じ、ワイルドサイドとは遠く遠く離れていった。
自分の求める本質と、真逆のことを魂は経験していて、さらに息ができなくなっていった。

でも2011年、また音楽を始める。
その年に出逢ったのがあの男だ。

ある日突然、お世話になっているライブハウスのマスターに、チケット代もいいから今夜は店にライブに来るようにと呼んでいただいた。
そして、キーボードの細海魚さんとふたりでツアーをしていた山口さんのライブをそこで初めて見ることになる。
赤いランニングシューズを履いて、髪を振り乱し、ギターをかき鳴らしながらStill Burningという曲を演奏していた。
隣の魚さんも長髪の頭を振っていて、もはや視覚にもエフェクトがかかっていた。

そしてライブの最後の曲。「満月の夕」では機材トラブルでギターの音が出なくなり、俺は羽をもがれた虫だ、と所在ない手をパタパタさせたり、後ろに組んだりして山口さんは歌っていた。

なんなんだろうこの人は。何がしたいんだろう?若くもなく着飾ることもなく。
どこに辿り着きたい人なんだろう?取り繕ってしか生きていけなかったその頃の私には理解できずただただ圧倒された。
でも規格外の曝け出しぶりに、なぜかとても親近感が湧いた。
この人には正直に話せそうだという安心感みたいなもの。
そしてさらに規格外なその音。激しく歪んでいるのだけれど音の中に嫌いな成分がなく、好きな時代の匂いがする。
そしてあたたかい音で美しい。
無条件に細胞が喜ぶのを感じた。
私は久しぶりに信用のできる大人と会えたのを確信した。
そしてライブが終わって、打ち上げの時。音楽やるんだ歌ってよといわれ、普段は絶対にできないが、その時は歌った。
めんどくさいからやめたという、誰からも苦笑いされて敬遠される歌を。
彼は即座にこの曲の本質を理解してくれ、いいじゃん!と褒めてくれた。
私にとっては、そういう出会いは人生で初めてのことだった。

そして出逢ってから10年、いろいろありながらも今私は山口さんと作ったアルバムを聴いている。
今思えば不思議なのだが、私はただ自分の中に響いたかすかなものだけを信じ、そして彼は励まし続けてくれて、惜しみなく与え続けてくれた。
その結果の形だ。

レコーディングの際、歌のテイクやエフェクトのチョイス、どれをとっても彼の采配は私の好きの感性からブレることはなく、それにとても感動した。そしてアルバムを作る作業の中で、いろいろな音楽に出会わさせてくれた。それにもとても感動した。
言葉足らずな私のことを理解してくれようと、やりたい表現を全部実現しようと、真剣に向き合ってくれた。
そこには真ん中に、音楽愛だけがあった。

彼は今まで自分が受け取ったものをいろいろな形で人に伝えたい、託していきたいという使命があるように思われる。
私は出逢ってから本当にたくさんのことを教えてもらった。
音の作り方、機材、位相から録音技術まで惜しみなく教えてくれた。そして生き方も。
それは、自分の好きな生き方を貫いて人生を作っていくということ。
そしてまずは相手のこと、人を思いやるということを優先させるんだという事。
音楽も人生もそれがないと成り立たないということ。
それはまさに私が指針としていたWalk on the wild sideそのものだった。

軽やかでいて、信念を貫き続ける生き方そのものがロックン・ロールな男、山口洋。

人生は紆余曲折しながらも、時々ものすごいギフトをもらえる事がある。
子供の頃からなかなか人にも世界にも心が開けず、救いが音楽だっていう人は世界にどれくらいいるだろう?
目の前に、その音楽が人になって現れて、魔法のように自分の心の中に流れるうたを形にしたとしたら?

このアルバムができたのは私にとっては奇跡でしかない。

時代に沿う音楽かはわからないけれど、
でも私の中に流れてきた音楽を時代を超えて共鳴し、そして山口さんが響かせ、前向きに生きるために変換してくれたものだから、きっとどこかの誰かの心に届くはずだと信じています。

この時代に生きるイカれたロックンローラー山口洋に感謝を込めて。